外観検査にAI(ディープラーニング)は必要か?

「対象物による」です。

もし検査対象物がすべて同じようにできていれば、「良品と同じかどうか」を検査すれば簡単で確実です。単純に良品の画像と重ね合わせてみて、違うところがあればNG。これより簡単で確実な方法はありません。

問題は良品にもバラツキがあること。このバラツキの影響で良品の画像にもバラツキが出るため、単純に重ね合わせるだけでは対処できません。このバラツキへの対応方法として、統計的手法があり、ディープラーニングがあります。

統計的手法は、弊社が20年近く採用してきた検査手法であり、現在でも非常に多く用いられている手法です。良品の画像のバラツキを、同一座標の輝度値のバラツキとして定義。1画素ごとに「平均±3σ」のルールを適用し、良品画像としての下限画像と上限画像を生成し、その範囲に入っているかを検査します。バラツキσが小さな対象物や、バラツキが小さな部位に対しては非常に高い検出能力をもち、バラツキσが大きくなるにしたがって、良品の幅が広がり、緩い検査になっていきます。ただバラツキの許容幅は大きくなく、高精度な対象物むけであり、良品率も上がりにくい傾向があります。その代わりにOK判定されたものに不良品が混じることはありません。

ディープラーニングは、この良品のバラツキをAI学習させることで定義しようとする方法と考えられます。良品の画像が同じにならないものでも検査できる可能性があります。バラツキが小さなものも含めて、あらゆる外観検査に適用できる可能性があるのですが、統計的手法に対していくつかの問題があります。

  • 確実性。バラツキに対する許容度が大きければ良品率も上がります。言い換えれば、良品の幅を広げることになり、OK判定品が良品である確率は低下します。
  • 学習の即時性。統計処理の場合、良品を追加登録し上下限画像を更新する処理は瞬時に終わります。一方でディープラーニングは数時間の再学習が必要になります。
  • ハードウェアの制限。ディープラーニングに学習にはGPUを用います。現在、市場でよく用いられている2Mカメラ、5Mカメラの画像を学習させるためには、20GB以上のメモリを搭載したGPUが必須であり、これは大きなコスト増になります。このGPUメモリ容量の問題のため、超高画素カメラや複数台カメラのシステムを構築しづらくなります。
  • ソフトウェアの問題。急激に変化している技術であり、1年後には環境が大きく変わっている可能性もあります。商用のものを使用していればメーカーサポートも期待できますが、一方でライセンス料もかかってきます。
  • コストの問題。目安として、統計的手法ならば150万、ディープラーニングならば300万。150万円程度のコストアップは避けられません。自動化の予算1000万円と考えると致命的なコストアップになります。

これらの問題を考えると「すべてディープラーニング」は得策ではなく、高精度な対象物には統計的手法。統計的手法で対応できないようなバラツキが大きい対象物にはディープラーニングというのが、現時点でのベストでないかと考えます。

最後にもう一つ。良品バラツキに対応した検査のためにディープラーニングに投資するならば、工程改善に投資して良品バラツキを減らす方が本質的ではないでしょうか。良品バラツキが減れば、不良品の発生頻度も大きく減るはずです。